蛍石の埋蔵・生産量、輸出入の現状について
蛍石(ほたるいし、けいせき)は、フッ素の原料であり、フッ素樹脂などを生産するには欠かすことのできない重要な鉱物です。「フローライト」「フルオライト」などとも呼ばれ、世界各地で産出されているのですが、どこでも取れるものではありません。埋蔵量や生産量には国別で大きな偏りがあり、その傾向も年々変化を続けています。
蛍石はどの国にあるのか
比較的広範囲に渡り蛍石は産出されています。世界全体での埋蔵量は2億トンを超えると予測されており、これまで多く掘り返されてきました。特に1960年代には盛んに掘られ、生産量はこの時期に急増したという歴史があります。しかしながら掘りやすいエリアからの産出が落ち着き、生産量もいったん減少しました。現代においてはメキシコや中国の埋蔵量が特に多いとされており、これらに南アフリカ、モンゴル、スペインを合わせた5か国で世界の過半数の埋蔵量を占めると予測されています。
生産量は中国がトップ
蛍石の埋蔵量はメキシコや中国、南アフリカなどが多くを占めてしますが、「生産量」に関しては中国が圧倒的なシェアを持っています。半数を超える割合で中国が市場を占有しており、次いでメキシコ、モンゴル、南アフリカ、ベトナムが生産量の多い国となっています。2021年時点では次のように生産量が記録されています。
- 中国の生産量:540万トン
- メキシコ:99万トン
- モンゴル:80万トン
- 南アフリカ:42万トン
- ベトナム:22万トン
蛍石の貿易状況
蛍石の埋蔵、生産は、中国やメキシコなどに大きく偏っているため、世界中で輸出入が行われています。世界全体で見たときの、主な輸入国は次の通りです。
- 中国
- ロシア
- トルコ
- カナダ
- インドネシア
中国とロシアだけで世界の輸入の半分ほどを占めています。また、蛍石の主な輸出国は次の通りです。
- モンゴル
- 中国
- イタリア
- 南アフリカ
- パキスタン
特にモンゴルの輸出が割合高く、モンゴルだけで半分近くを占めています。
日本の輸入相手は中国がメイン
日本にも蛍石は埋蔵されていますが、商業的に採掘可能なほどの鉱脈はないとされています。過去には鉱脈があったものの、現在では枯渇しているのです。そこでフッ素を作るための蛍石は、日本は他国からの輸入に頼らざるを得ません。輸入相手国としてメインになっているのは中国です。冶金・セラミックグレードの蛍石は過半数が中国、そして4割近くをモンゴルが占めています。アシッドグレードの蛍石に関してはベトナムと中国でおおよそ半々の割合を占めています。
※冶金・セラミックグレード:冶金・セラミックグレードは、CaF2(フッ化カルシウム)の含有量が97%以下の塊鉱。製鉄分野の融剤、また、セラミックの製造でも使用されている。
※アシッドグレード:粉砕・浮遊選鉱等によりCaF2の含有量を97%超にした粉末。選鉱方法の違いから、冶金・セラミックグレードの蛍石よりもCaF2の含有量が低い鉱石でも製造ができる。フッ化水素製造などに用いられる。
各国の生産量の推移
中国はここ10年間を見て、蛍石の生産量がおおむね増加の傾向にあることがわかっています。2012年時点で420万トンであったのが2016年ごろにいったん380万トンほどにまで下がり、その後再び上向きになり2020年には540万トンの生産量にまで増加しています。
メキシコも2番目に生産量の多い国ですが、増加の傾向は示していません。2012年時点で120万トンであったのが若干の減少を続け、2020年には90万トンほどの生産量になっています。一方、モンゴルは大きな増加傾向を示しています。2012年時点で50万トン弱の生産量であったのが、2017年を転機に、2021年には80万トンにまで増えています。南アフリカやベトナムも同様です。増加傾向が強く、10年ほどで生産量が倍増しています。その他、スペインやモロッコ、ドイツ、カザフスタン、イランなどは顕著な変化がなく横ばいで推移を続けています。
フッ素の輸入量の推移
フッ素の原料および素材の輸入量は、年によってまちまちです。原料にあたる蛍石の冶金・セラミックグレード・アシッドグレードについては、どちらかが一方的に多いということもなく、明確な差はありません。ただ、原料よりも素材(フッ素樹脂やフルオロカーボン、フッ化物、フッ化水素)などの方がフッ素全体からみた輸入割合は大きいことがわかっています。特に割合多いのは「フッ化水素」の輸入量です。素材で次いで多いのはフルオロカーボン類で、フッ化物とフッ素樹脂は毎年大きな変化はなく、フッ素全体で見ると占める割合は小さいです。
まとめ
フッ素の原料である蛍石は、中国やメキシコなどで多く埋蔵・生産されており、世界中で貿易が行われています。また、フッ素の輸入に関してはフッ化水素が多いものの、輸出数量に関しては近年フッ素樹脂のシェアが伸びていることもわかっています。フルオロカーボン類も比較的大きな割合を持っていますが、近年はフッ素樹脂の輸出量が急激に伸びているといわれています。