フッ素樹脂の次世代通信用基板としての利用|5Gや6Gへの貢献と課題について
通信機器にはスマホやタブレット、パソコンなど様々なものがあります。これらすべての機器の内部ではたらいている部品の1つが基板で、全部品を動作させるために欠かせない重要な部品として存在しています。
しかも、5Gの登場やポスト5Gに向けて通信はより高度化しており、各種部品同様に基板についても進化することが求められています。こうした通信用基板の性能向上に向けて活用が期待されているのが「フッ素樹脂」です。ここで、フッ素樹脂が次世代通信用基板としてなぜ必要とされているのか、その理由や技術的な課題についても簡単に紹介します。
通信機器の土台として機能する基板
そもそも「基板」とは、通信機器に搭載される、回路を載せるための土台を意味します。単に部品同士を乗せるだけでなく、電気的に接続するとともにモジュール全体としての最適化を図るための役割を果たす存在です。そこで通信用基板の基本的機能として次の3つを挙げることができます。
1:回路を配置する土台としての機能
2:回路間の電気的な接続を行う機能
3:熱を逃がす機能
多種多様な通信機器が世の中にあふれていますが、基板はその内部で常に活動を続けているのです。あまり世間的には基板が注目されることもありませんが、部品が多様化・複雑化し、通信速度の高速化および通信量が増加することに伴い基板に求められる性能も高くなってきています。5Gや6Gといった次世代通信が登場したことで、さらにその流れは加速しています。
次世代の通信用基板の開発が進められる
5Gとは「第5世代移動通信システム」のことであり、これまでの4Gなどでは実現が難しかった大容量コンテンツも高速で伝送することが可能になっています。すでに2020年からは商用利用も始まり、徐々に普及が進んでいます。5Gへの適用・普及が進められる傍らで次の6Gに向けた開発も進められ、より波長の短い光を用いた無線通信などの活用が期待されているのですが、これら次世代通信を広く社会に浸透させるのは簡単なことではありません。
大きな問題点は「ミリ波帯などの高周波帯を利用していること」にあります。ミリ波帯とは、よく使用される周波数帯800MHz~2.4GHzではなく、28GHz以上の周波数帯を指しています。この周波数帯ではその性質上電波の損失がどうしても生まれやすいのです。通信ケーブル上、そして基板上での伝送時に一部エネルギーが消失してしまうのです。
フッ素樹脂の通信用基板への活用が期待されている
5Gの普及、さらにその先の6Gの開発に向けて、フッ素樹脂の活用が期待されています。上述の通り、基板上でのロスが大きな課題になっているところ、フッ素樹脂の性質を応用すればその問題点を改善できるからです。これにはフッ素樹脂の「誘電率の小ささ」が関係しています。誘電率は電場を印加したときに物質が電気を蓄える能力を表す物性値で、これが小さいということは電気信号の伝送損失が小さいことを意味します。結果的に信号の遅延改善にもフッ素樹脂は貢献します。
高い機能性のほか実用化にも貢献する
他にもフッ素樹脂には次のような特徴があり、今後の活躍に期待が集まっています。
- 難燃性が高い
- 耐候性が高い
- 耐薬品性が高い
- 機械強度が高い
高度な機能性が求められる基板として活用できても、あまりに繊細過ぎると実用化が難しいです。運用していく中ですぐに壊れてしまい、機能性が損なわれてしまうのでは普及させられません。
例えばデータセンターに利用する部品については難燃性の高さが求められます。できるだけ火災被害を広げないため、燃えにくい素材であることが重視されているのです。この点でもフッ素樹脂は高く評価され、実際データセンター向けのケーブルなどに採用されています。また、耐候性があることで、基地局のアンテナで使う基板としても役立っています。紫外線や雨にさらされてすぐにダメになってしまっては基地局で利用できません。経年劣化ができるだけ起こりにくく長持ちする素材が重宝されるのです。
フッ素樹脂利用における課題
フッ素樹脂には次世代通信用基板としての高いポテンシャルがあります。しかしながら、フッ素樹脂の利用にはいくつかの課題がついてまわります。1つは「コストの高さ」です。そしてもう1つ重要なことが「高度な基盤として利用するための加工が難しい」という点です。基板として利用するには他の材料との接着が必要です。しかしフッ素樹脂は撥水性・撥油性に優れているが故に接着剤の剥離が起こりやすいのです。これでは異なる材料とくっつけることが難しいです。
そこで接着性を高めるための処理が施されるのですが、そうすると次は表面の平滑度を維持するのが難しくなってしまいます。基板における「平滑度」は、伝送ロスを防ぐために重要であり、この課題を解決するために現在様々な試行錯誤が行われているところなのです。
まとめ
フッ素樹脂は誘電率が小さく、5G・6Gなど次世代通信用基板への活用が期待されています。フッ素樹脂により伝送ロスを低減させられるのですが、高度な通信用基板として用いるための加工が技術的に難しく、平滑度を維持したまま接着性を高めるための研究開発が現在進められています。