PVDFとは?その特徴とETFEとの違いを紹介
ETFEと同じく、日ごろからフッ素樹脂を扱う人以外はきっと聞いたことがないでしょう。これまでフッ素樹脂の基本的な性質について解説してきましたが、本章ではフッ素樹脂間の違いにも分子鎖の側面から踏み込んでみたいと思います。
PVDFの特徴
PVDF(ポリビニリデンフルオライド)(日本名称:ポリフッ化ビニリデン)は実はETFEと同じようにCを取り巻く側鎖の半分がフッ素、半分が水素です。分子を構成する原子だけを見ると、フッ素と炭素の数の比はETFEと同じと気づくでしょう。しかしその性質は大きく異なっており、ETFEの融点が270℃に対し、PVDFが160℃で、ETFEの方が極めて安定です。
一方でPVDFの方が圧縮に対する強さが1.5倍程高く強靭で、限界酸素指数も1.5倍ほど高く、酸化されにくい樹脂で、強度的面は他の樹脂よりも高い部分があります。ギターやバイオリンの弦や釣り糸として用いられることもあり意外と身近で接することもある樹脂です。
ただ同じ原子の種類、数なのに、なぜこのような差が生まれるのでしょうか。
これまで取り上げた樹脂
PTFE | Cを取り巻く側鎖が全部フッ素、最も基本的なフッ素樹脂 | 融点327℃ |
PE | Cを取り巻く側鎖が全部水素、最も汎用的な樹脂の一つ | 融点125℃ |
ETFE | Cを取り巻く側鎖の半分がフッ素、半分が水素で、PTFEとPEの中間の性質を持つ | 融点270℃ |
PVDFとETFEの差
この二つの樹脂の物性の差異はコモノマーの並び順番に由来します。この並び順がこれまで言ってきたようにコンホメーションを支配し、樹脂の物性に影響を及ぼします。
例えば炭素にフッ素が二つ付いたコモノマー部をA(F-C-F)、炭素に水素が二つ付いたコモノマー部をB(H-C-H)とします。PVDFの場合はABABABABと規則正しく並んでいきます。一方で、ETFEの場合はAABBAABBと並んでいきます。重合時の触媒ではなく、そもそもの原料に差があるので、このような配列になります。(これを高分子の世界ではブロックポリマーと呼ぶ場合もあり、ゴム等のアロイを混ぜることなく、1種類のポリマーのみ海島構造を意図的に作り出せるため、一般的に強靭な樹脂になります。)
フッ素樹脂ではAの後にAが入ろうすると、フッ素同士が反発しあうため、ねじれて入ることは以前に解説しました。そのため、ETFEの場合もAABBAABBとAが続く場所があるため、樹脂がねじれたコンホメーションを取るのです。そのため、ETFEはPVDFよりも化学的に安定で、融点が高い樹脂となっています。一方のPVDFは比較的余裕のある分子鎖の構造をとっているので、圧縮された時も歪む余裕があり、圧縮強度が高い原因となっていると考えられています。
まとめ
ETFEの方がPVDFよりも化学的に安定で融点が高い。PVDFとETFEは同じ原子比率ですが、コモノマーの並び方の違いによってコンホメーションに差異ができる。ETFEの方が分子鎖がねじれて配列するため、PTFEに近い物性となる。
別ページ:⇨PTFEとテフロンの違いは?歴史や国内での取り扱いについて
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