【ウエハーの洗浄と乾燥】品質と環境への配慮から進化してきた、洗浄・乾燥の手法を紹介
半導体プロセスではウエハーの存在が欠かせません。そして集積回路ではウエハー上に非常に細かく配線をしていくため、微少なゴミも付着していてはいけません。断線を起こす可能性がありますし、金属汚染により電気特性を変えてしまうおそれもあります。そこで重要なのがウエハーの洗浄です。
ここではこの洗浄がどのような方法で行われているのか、また、その後の処理として重要な乾燥の手法に関しても解説していきます。
ウエハー洗浄の基礎
まずは洗浄方法の大枠を知っておきましょう。物理的な除去と化学的な除去の2パターンがあります。パーティクルと呼ばれる微小粒子の付着や、金属による汚染が起きてしまうことなどがありますが、具体的状況に応じて最適な手法で対応をしなければなりません。
例えば物理的な除去方法では、ブラシで払いのけたり、超音波による振動で除去したり、またはエアロゾルの吹き付けなども行います。
化学的な除去方法では、薬剤を使って化学反応を起こし、これによりパーティクルや汚染を溶解して綺麗にしていきます。
大きなパーティクルなどであればブラシでの除去が有効ですが、再付着のおそれがありますし、非常に小さなものであれば化学的除去や、両方を組み合わせて洗浄をしていくこともあります。
標準的な手法の「RCA洗浄」
最も基本的な洗浄手法が「RCA洗浄」です。半世紀ほど前にアメリカのエレクトロニクスメーカーRCA社から提唱されたことでこのようにネーミングされています。
RCA洗浄は化学的な手法を用い、薬剤の様々な組み合わせにより各種汚染を除去していきます。洗浄の対象に対する主な洗浄液は下表の通りです。
除去対象 |
洗浄液 |
有機物、微小粒子 |
過酸化水素水+アンモニア ※1 |
金属汚染 |
過酸化水素水+塩酸 ※2 |
有機物、レジスト |
過酸化水素水+硫酸 ※3 |
※1.この混合液は「APM」「アンモニア過水」とも呼ばれ、このときの洗浄手法を「SC-1洗浄」と言われる
※2.この混合液は「HPM」「塩酸過水」とも呼ばれ、このときの洗浄手法を「SC-2洗浄」と言われる
※3.この混合液は「SPM」「硫酸過水」とも呼ばれる
この他、酸化膜を取り除くための、希フッ酸を用いた「DHF」。自然酸化膜を取り除くための、バッファードフッ酸を用いた「BHF」などもあります。
RCA洗浄ではこれらを組み合わせて実行します。「APM」「DHF」「HPM」、あるいは「SPM」「DHF」といった流れなど、組み合わせ方によって洗浄できるものが変わってきます。
ただ、RCA洗浄では「加熱をしなければならず、薬剤の蒸発で濃度が変化してしまう」「薬品が危険」「環境負荷が大きい」といった問題も抱えています。
より環境に配慮した洗浄方法が好まれる
RCA洗浄は歴史の長い基本的な洗浄手法です。しかし現代では一企業にも環境への配慮が求められています。より良い方法があるにもかかわらず環境悪化に繋がる活動をしている企業は社会的な評価を落としかねません。
そこで、より安全で、環境負荷も小さな洗浄方法が模索されています。
従来の薬剤とは異なる薬剤、添加材を使用したり、できるだけ薬剤を使用しない方法で洗浄したり、世界中で開発が進められています。
洗浄後の乾燥も重要
ウエハー洗浄後は、すぐに乾燥しなければ表面が酸化してしまいます。
「ウォーターマーク」と呼ばれる汚染が発生することもあり、洗浄と乾燥はセットで行われるのが通常です。
なおウォーターマークとは、気体(空気)・固体(ウエハー表面)・液体(残留した水滴)の三相界面で生じる不完全な酸化で発生する汚染のことで、乾燥までに時間がかかってしまうと発生しやすいとされています。
乾燥の主な方法として「スピン乾燥」「IPA乾燥」「マランゴニ乾燥」の3パターンが挙げられますが、このうちスピン乾燥をした場合にはウォーターマークができやすいと言われています。スピン乾燥はその名の通り、ウエハーを回転させて水分を取り除く手法であり、装置が安価、ウエハー1枚あたりの所要時間が短いというメリットを持ちます。しかしウォーターマークや静電気の発生といった問題点も残る手法です。
アルコールを使った洗浄
スピンにより乾燥させる方法は簡単ですが、課題も多いため、IPA(イソプロピルアルコール:iso-Proply Alcohol)というアルコールを使ったいくつかの洗浄手法(下表)が用いられます。
|
手法 |
利点 |
IPA乾燥 |
ウエハー表面にある水分をIPA蒸気で置換 |
パターンの多いウエハーにも有効 |
マランゴニ乾燥 |
純水の中に入ったウエハーを引き上げる際、マランゴニ力を使い、IPA蒸気および窒素を吹き付ける |
IPAの使用量が少ない |
ロタゴニ乾燥 |
スピンさせつつマランゴニ乾燥を実施 |
IPAの使用量が少ない 所要時間が短い |
IPAの揮発性を有効活用した乾燥手法ですが、エコの観点から使用量は少ない方が良いとされています。
そこで「マランゴニ乾燥」が登場します。マランゴニ力は表面張力に伴い発生するものであり、自然法則を上手く活用した画期的な手法であると言えるでしょう。IPAの使用量も減らせます。
ただ、これをもってしても水分の完全な除去は難しく、新たに「ロタゴニ乾燥」という手法も提案されています。
これはスピンさせつつマランゴニ力も使って乾燥させる手法で、IPAを多く使わないだけでなく、乾燥に要する時間も短く、さらに簡単な装置で実行できるというメリットも持っています。
ここでは洗浄方法、そして乾燥方法を紹介しましたが、技術力の向上や環境配慮への意識の高まりなどから、今後もより良い手法が開発されていくことでしょう。
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