次世代パワー半導体に関する研究開発と政府の取り組み
半導体市場自体今後も伸びていくと見られています。さらに近年のトレンドでもある環境への配慮という観点では「パワー半導体」も無視できません。そこでこの記事では、パワー半導体に関するこれまでの取り組みや今後検討されている、政府によるプロジェクト、次世代素材に関する課題と研究開発内容などを解説していきます。
これまでの半導体事業
2021年、カーボンニュートラルに向けたパワー半導体の、性能向上の必要性が説かれています。しかし、それ以前に次世代半導体事業が一切なかったわけではありません。例えば「内閣府SIP事業」や「NEDO事業」があります。100億円規模で実施されており一部成果が表れていますが、市場獲得は十分に進んでいないのが実態と評価されています。
例えばSIP事業では、「損失2分の1以下、対席4分の1以下」という性能目標を他国に先行して達成したという成果がある一方、後に「企業による信頼性確認、利用が急務。企業による早急なビジネスモデル確立が不可欠」との指摘がされています。NEDO事業においても中間評価にて「SiCパワーエレクトロニクスの普及には応用分野の発掘および拡大が重要で、ウェハを更に高品質化させるとともに低コスト化も課題」であるといった指摘がされています。
パワー半導体が目指すところ
新たに取り組むプロジェクトでは、上の問題点として指摘された「実用化に向けた課題」を克服するため、社会実装される分野別に開発対象を細分化。ユーザ側と定期的に議論をしつつ目標修正を実施していくとされています。そして今後のコストおよび性能改善については、2030年までに50%以上の損失低減を実現し、さらにSiと同等のコストにするという目標設定がされました。
2020年の損失から50%の削減を目指すのですが、これまでの技術開発トレンドから見るに企業の自助努力のみでは2030年の達成が難しいため、国家によるプロジェクトでこれを後押し。SiC等が抱える課題解決を前倒しする形で2030年までに達成させる見通しです。整理すると、支援策の1つは「デバイス製造技術開発の補助」により、損失の50%削減とSi同等のコストの実現。これは野心的水準として設定されている内容です。
支援策2つ目は「ウェハ技術開発の委託補助」です。次世代パワー半導体においてウェハ技術も重要ですが、この部分は実施者に裨益するところが相対的に小さいとみられ委託での開始が想定されています。具体的には、2030年までに、8インチ(200mm)SiCにおける欠陥密度を一桁以上削減することが目標設定されています。
パワー半導体の高性能化に対する課題
技術課題は耐圧ごとに解決方法が異なります。よって、まずは各用途に応じた耐圧レンジで分類し、複数の取り組みを並行させることが想定されています。例えばサーバー電源などはパワー半導体のうち750V級以下の小容量帯にあたります。高性能化・高信頼性化は他の容量帯でも共通する項目ですが、小容量帯では特に高品質結晶成長技術、電磁波ノイズ対策、高効率電源に向けた回路技術開発が重視されます。
中容量帯では電動車向けの1.2kV級と産業機器向けの1.7kV級に分けられます。前者は高効率モーター駆動ができるような高効率制御技術、後者は急速充電に向けた高出力密度化、高放熱化に向けたモジュール技術などが重視されます。大容量帯は3.3kV級、再生可能エネルギー等向けの変換機や遮断器があります。故障時の信頼性確保に向けたモジュール技術、大電力変換に向けた高耐圧化などが重視されます。
なお、中容量帯・大容量帯のいずれもウェハの大口径化および高品質化は大きな課題です。一般的なウェハ製造では「昇華法」と呼ばれる手法が採用されてきましたが、これでは転位や欠陥といった品質の問題、大口径化が困難です。そこでガス法や溶液法といった手法による製造も研究が進められていますが、いずれの手法にも下表のように長所・短所があり、どの手法が今後主流になっていくかは判断が難しいという状況です。
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特徴 |
課題 |
昇華法 |
・昇華後、再結晶化 |
・大口径化が難しい |
ガス法 |
・ガス原料の反応による結晶化 |
・温度やガスの流れの制御が難しい |
溶液法 |
・炭素含有Si溶液中で結晶化させる |
・金属汚染の問題が生じる |
ウェハ製造技術の開発は欠陥の低減にも繋がります。
Siよりも性能が優れるSiCですが、酸化膜との境界に高密度の欠陥が生じてしまうという問題を抱えています。この欠陥はSiに比べて約100倍にもなります。そこで欠陥により抵抗を高くしないよう、ウェハ製造技術の開発、およびデバイス製造技術の開発が重要なアプローチとして挙げられており、創意工夫が求められています。
まとめ
次世代パワー半導体の研究開発は、環境への配慮という意味でも、国際的な競争力を高めるという意味でも重視されています。国内企業による独自の取り組みのほか、ここで挙げたような政府によるプロジェクトも進められています。今後の長期的にパワー半導体に関する取り組みが進められ、市場が拡大していくことでしょう。
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