ワッセナー協約とは?半導体の輸出入を行うメーカーが知っておくべき世界のルールについて
世界各国で結ばれている「ワッセナー協約」というものをご存知でしょうか。この協約に反する行為をしてしまわないよう、半導体の輸出入を行うメーカーは協約の内容をよく理解しておく必要があります。この記事でワッセナー協約の概要、成立の背景、輸出入の際に行うべき手続について解説をしていきます。
ワッセナー協約とは安全保障のための貿易統制協約
海外貿易に関して、安全保障の観点から国際協約が結ばれることがあります。その1つが「ワッセナー協約」です。オランダのワッセナーで設立交渉が行われたことに由来します。「ワッセナー・アレンジメント」や「WA(The Wassenaar Arrangementの略)」と表記されることもあります。
テロや地域紛争のリスクを抑え、地域の安定を維持するため、通常兵器およびその関連汎用品や技術の移転を防止する規制がその内容となっています。禁輸品リストを設けることで貿易統制を図っています。執筆時点で42ヶ国、日本やアメリカ、ロシア、イギリス、オランダ、ドイツ、ウクライナ、インド、韓国など多数の国が参加しています。なお、中国はここに参加していません。詳しくはこちらの公式ページ(https://www.wassenaar.org/)から確認ができます。
ワッセナー協約の概要については外務省「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」のページからも確認可能です。(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/wa/index.html)
ワッセナー協約はココムの後継として発足
ワッセナー協約は、「ココム」と呼ばれるレジームの後継として誕生しました。ココムは冷戦時代に機能していた輸出規制です。戦略物資に係る輸出を規制し、自由主義国の安全保障を図るために設けられました。
規制対象の物資や技術をリスト化するなど、ワッセナー協約とも共通する事項が含まれますが、ココムは共産圏に限定した規制でした。そこで1994年にココムは解消。代わりに対象範囲を広げ、規制内容を整備したワッセナー協約が1996年に発足したのです。ワッセナー協約はすべての国家や地域、テロリストなどの非国家主体も対象に適用されます。
なお、ココムが適用されていた時代、日本でも大きな違反事件が起こっています。1987年、ココムにより輸出が禁止されていた工作機械が不正に輸出されたという事件です。ソ連の技術進歩によりアメリカに対しても危険が及ぶとして日米の政治問題にまで発展しました。
ワッセナー協約に対して企業が注意すべきこと
ワッセナー協約の担当官庁は経済産業省です。特定の貨物および技術など、ワッセナー協約でリストアップされたものは原則経済産業省の輸出許可が必要になります。基本的には“一定以上のスペックが備わっていること”が要件となりますが、“輸出先”や“用途”によっても許可が必要になったり輸出ができなくなったりもします。
そこで企業が輸出を行うにあたっては、規制対象のチェックをした上で許可申請の手続を行わなければなりません。問題のリストですが、①基本リスト、②機微品目リスト、③特に機微な品目リストの3種から構成されています。基本リストに着目してみると、さらに次の10のカテゴリーから構成されていることがわかります。
- 先端材料
- 材料加工
- エレクトロニクス
- コンピューター
- 通信関連
- センサー・レーザー
- 航法装置
- 海洋関連
- 推進装置
- 軍需品リスト
半導体や集積回路などの製品も、エレクトロニクス分野として規制される可能性があります。サイバー攻撃を行う機器の土台として機能し得るからです。企業が特に注意すべき点は、「最新のリストを確認すること(年々改正が行われているため)」「部分品や附属品も規制対象になること」「製品名・名称が違っても実質同じモノがあること(一般名称とリストに記載の名称が一致しているとは限らないため)」です。
その他注意すべき国際輸出管理レジーム
大量破壊兵器や通常兵器、それらの開発などに用いられる技術や汎用品についての輸出を規制している国際輸出管理レジームは、ワッセナー協約のほかにもあります。
例えば次のようなものが上げられます。
- NSG(Nuclear Suppliers Group)
「原子力供給国グループ」
1978年に発足
48ヶ国が参加- AG(Australia Group)
「オーストラリア・グループ」
1985年に発足
42ヶ国とEUが参加- MTCR(Missile Technology Control Regime)
「ミサイル技術管理レジーム」
1987年に発足
35ヶ国が参加
このように列挙してみると、ワッセナー協約は比較的新しい国際レジームであることがわかります。
許可申請の手続方法
許可申請は、電子申請により行います。経済産業省が申請を受理した後、安全保障の観点で審査を行い、「許可」「条件付き許可」「不許可」の判断を下します。なお、申請には「個別許可申請」と呼ばれる方法と、「包括許可申請」と呼ばれる方法の大きく2パターンがあります。
- 個別許可申請:個々の契約ごとに許可の申請を行う、原則的な方法
- 包括許可:個別に許可を申請することなく、一定の範囲に関して包括的に許可を求める方法。輸出者が管理体制を整備し、審査機能を自主管理の下で担えることが条件になる
その他詳しい手続方法については、経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス」(https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance.pdf)を参照すると良いでしょう。
まとめ
本来、製品の出荷など、私企業のするビジネス行為は自由にできるはずのものです。しかし完全な自由を許していると、地域の安全が脅かされることもあるのです。そこで半導体を含む一定の製品については、輸出入に際して許可申請をしないといけないケースがあります。半導体関連企業はワッセナー協約等に留意しましょう。
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