フッ素樹脂の耐薬品性について|なぜ化学的に安定なのか、そもそも耐薬品性とは何か
物質の特徴・性能を図る指標の1つに「耐薬品性」があります。物質それぞれに用途がありますし、常に高い薬品性が求められるわけではありませんが、様々な物質と接触する機会を持つ物質に関しては、耐薬品性の高さが重要になってきます。フッ素樹脂の特徴の1つに耐薬品性が挙げられますが、具体的にどのような利点があり、どのような用途で使われているのでしょうか。なぜフッ素樹脂は様々な薬品に耐えられるのか、という話題にも当記事で言及していきます。
耐薬品性とは
「耐薬品性」とは、ある物質が、様々な物質からの化学的な腐食等に耐える性能を指します。物理的な衝撃などに対する強度も重要ですが、薬品に触れたときに簡単に腐食・軟化・変形などを起こしてしまったのでは本来の役目を果たせなくなります。
例えば化学工業、医薬品、自動車や航空宇宙産業などで利用するとき、単純な強度のみならず、耐薬品性も兼ね備えていなければ、使い物にならないケースがあります。もちろん、用途によっては耐薬品性があまり求められないものもありますので一概にはいえませんが、物質をそのままの状態で維持するためには耐薬品性が重要といえます。溶解して使えなくなるまで高い反応を起こさなくても、表面が劣化したり変色したりすることで見栄えが悪くなるという問題も起こります。
フッ素樹脂における耐薬品性の特徴
フッ素樹脂は、他の様々な材料と比べて、様々な化学物質や溶媒への耐性を有しており、高い耐薬品性を持っていると評価されています。数ある樹脂の中でもトップクラスの化学的安定性を持ち、幅広い化学環境に耐えられます。
フッ素樹脂の高い耐薬品性は、フッ素樹脂の特徴的な構造に起因しています。“フッ素”樹脂ですので、当然ながら構造中にフッ素原子を含んでいます。そしてこのフッ素原子が炭素と化学結合を起こすことで原子分子間の結合を強固にし、物質全体として安定な状態を作り出しているのです。
また、フッ素樹脂の「非粘着性」も耐薬品性の高さに寄与しています。フッ素樹脂でコーティングされた物体表面の摩擦係数は低く、結果、なめらかになります。べたつきがあまりなく、洗浄も容易です。そのため薬剤等が物体表面に付着するのを防ぎやすく、付着してもすぐに落とせますので、化学反応が起こる機会や時間を減らすことができるのです。
なお、フッ素樹脂にもいくつかの種類があります。「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)」や「PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)」、「FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)」などが挙げられます。代表的なフッ素樹脂はPTFEで、耐薬品性についてもこのPTFEがもっとも優れています。
フッ素樹脂は多様な環境下で耐薬品性を発揮する
物質の性能は、温度により変化することがあります。そのため0℃~30℃ほどの、外気と同等の温度において高い性能を示すものでも、さらに低温あるいは高温の環境下に置かれることで、十分な性能を発揮できなくなるケースもあるのです。この点、フッ素樹脂においては、多様な条件下でも安定して優れた性能を発揮します。
例えば、PTFEやFEPなどのフッ素樹脂は比較的高温にも強いとされ、高い温度にさらされる場所で使用をしても、耐薬品性を維持しやすいです。もちろん、対応できる温度にも限度がありますので、極端な高温下で使用することはできません。考慮すべき環境は温度だけではありません。
強い圧力がかかる場所でも変わらない性能が出せることが大事です。フッ素樹脂に関しては比較的高圧にも耐えることができるとされ、石油やガスなど、多様な産業用途にも適しています。ただし、極端な高圧、機械的ストレスを長時間受け続けることで耐薬品性に悪影響が及ぶこともあります。
耐薬品性を活かしたフッ素樹脂の用途
フッ素樹脂は色んな場面で使われています。そのうち特に耐薬品性の高さを活かした用途について一部簡単に紹介します。
- 調理器具
多くの化学物質と反応を起こさないこと、また、高温にも強いという性質から、調理器具にも使われています。結果、表面が焦げ付きにくくなるというメリットが得られます。- リチウムイオン電池
リチウムイオン電池の安全性・長寿命を実現するため、フッ素材料が活用されています。- 自動車
燃料ホース、車載用ディスプレイの表面など、様々な箇所でフッ素樹脂が利用されています。また、自動車のみならず、航空・宇宙関連で同様の使われ方をしていることもあります。- 医療機器
医療機器は薬剤と直接接触する機会が多いため、高い耐薬品性が求められます。例えばシリンジ(注射器)などでフッ素樹脂が使われています。
まとめ
フッ素樹脂は、フッ素原子が炭素と結合することによる特異な構造を持つことから、耐薬品性が高くなっています。周囲の温度や圧力の変化に対しても比較的強く、化学的な反応性が乏しく、安定的であることが評価され、自動車や医療機器、電子機器等にも広く利用されています。
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