欧州半導体法(European Chips Act)とは?半導体不足やシェア縮小の対策となる法制化が進む
5GやIoTなどITの市場が拡大していく中で、その技術を支える土台として半導体も大きな役割を果たしています。各国半導体産業の勢力はその国における経済力そのものに影響を与えうるものとなり、日本のみならず世界中で技術主権(技術的な自立)への追及が重要視されています。
近年は特にアメリカと中国の覇権争いが注目されていますが、これら以外の国も勢力拡大に向けて政府レベルで取り組みが行われています。ここではそのうちの一つ、EUにおける新たな法制化の流れを説明していきます。
EU域内での半導体の自給に向けた法制化が始まる
様々な国が独自に政策を打ち出し、半導体産業に対して大きな予算を組むなど、本格的な取り組みが進められています。他方で新型コロナウイルスの流行もあり、これが経済全体にも多大な影響を与えるとともに、結果として半導体不足の問題も招いています。
EUも当然その影響を受けていますし、それ以前からの米中競争、EUの半導体シェアの情勢も踏まえ、EU内で半導体の自給をしようという流れが強まりました。そこで、主体的な最先端技術の実現を目指す法案「欧州半導体法」の策定により、アメリカや中国との競争にも参入していく考えを表明しています。
欧州半導体法策定の背景
この欧州半導体法について、なぜ法制化を目指すことになったのか、背景をもう少し詳しく見ていきましょう。法制化に至った経緯を整理し、簡単にまとめると以下のように言えます。
- 半導体イノベーションに対して、中国政府が数十億米ドル規模で資金を投下した
- 米国議会も半導体の戦略的価値に関して合意に達している
- 半導体に対して世界のニーズが増大しているものの、チップの設計や製造能力に至るバリューチェーンで欧州のシェアは縮小してしまっている
- 特にチップの製造についてアジアに依存し過ぎている
- 世界的な半導体不足が生じている
こうした種々の問題から、新たな取り組みの必要性が生じたのです。すでに自動車や電車、家電、スマートフォンなど、あらゆる機器で半導体が使われているにも関わらず、半導体不足が起こってしまうと幅広い製品の生産が抑制されてしまいます。そして今回の半導体不足問題は、より強い危機感を感じさせるきっかけとなったのです。
欧州委員会もこの状況に対して警鐘を鳴らしています。半導体不足が欧州の経済や雇用、レジャーといった分野にまでも影響を及ぼし、しかもこの状況はしばらく続くとみています。そして半導体に関する技術主権は、単に経済上の競争力として重要なだけでなく、地政学的な利害関係にも及ぶものと捉えられています。
欧州半導体法の内容
欧州半導体法に関しては、まだ具体的な資金調達・生産スケジュールといった詳細が決められているわけではありません。ただ、「EUと国家が投資の協調を図ること」を目指すと明らかにされています。EUの自給能力を高めるためです。そもそも同法策定の目的は、欧州の半導体エコシステムを共同で作り、供給を保証することにあります。
この実現に向けては、以下3つの取り組みが重視されています。
- 半導体の研究戦略
- 生産能力強化に向けた共同計画
- 国際協力・連携に向けたフレームワーク
「半導体の研究戦略」を掲げていますが、これは欧州の強みが研究開発であることに由来します。ベルギーやフランス、ドイツに世界的な研究機関を有しており、これまでも大きな成果を出してきた実績もあります。そこで、欧州にある研究機関の取り組みをベースとした、半導体研究の戦略構築を大きな取り組みとして掲げているのです。
「生産能力強化に向けた共同計画」については、特に半導体サプライチェーンの監視、ウエア製造者といったサプライヤーのレジリエンスのサポート、に関する計画の構築をするとされています。最終的にはエネルギー効率高く半導体を大量生産できる巨大工場(メガファブ)の建設支援も行うとしています。
ただ、EUのみで高い競争力を構築するのは現実的ではないとし、次の「国際協力・連携に向けたフレームワーク」の重要性も説いています。あくまで1つの地域への過度な依存をなくしサプライチェーンを多様化することが重要なのであり、EU以外の排斥を目指しているわけではないからです。そこで欧州委員会は、先端半導体の生産能力向上に寄与する海外投資も歓迎すると示しています。外国投資を歓迎しつつ、欧州半導体法によりEUの供給保証を保つ条件を整備していくという流れです。
まとめ
EUに限らず、今世界的にアジア製品への依存が強い状態にあります。そこでこの状況を是正し、半導体に関する技術主権を得るためにも、EUは欧州半導体法の法制化を進めています。欧州半導体法でも、半導体に関してEUの自給力を高めつつ、世界各国との連携体制も整えようとしています。
この法制化の流れはEU内での一定の評価を得ており、透明性をもってこうした取り組みを実施することが半導体産業のレジリエンス強化、強固なサプライチェーン構築の機会になると言われています。
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