フッ素の発見から応用(フッ素樹脂など)までの経緯・流れを紹介
フッ素樹脂やフッ化物など、フッ素を応用した製品等は世の中にたくさんあります。しかし、大昔から当然のようにフッ素が使われていたわけではありません。フッ素が見つかっていなかった時代もあり、化学者による発見、その後の応用技術の進展を経て現代に至ります。ここではどのようにしてフッ素が発見されたのか、製品などとして応用されるまでの流れを簡単に紹介していきます。
フッ素が発見された背景
フッ素が発見されたのは、現代から140年ほど遡った1886年のことです。1886年以前からフッ素の存在については予測されていたのですが、フッ素は他の元素と結合しやすいという性質を持つことから遊離状態(化合物からフッ素だけを取り出し、単独のイオンとして存在している状態のこと。)だと自然界に存在しにくいため、容易には入手ができなかったのです。また、化学物質の中でも特に強い酸化剤として知られており、水素とも化合してしまうことから、他の化合物からフッ素を取り出して確保することも技術的に難しかったのです。
フッ素の取り出しには危険も伴う
危険性の高さという意味でもフッ素の取り出しは難易度の高い作業でした。フッ素単独の取り出しに成功する以前も多くの化学者が挑戦をしていたのですが、実験の失敗により負傷することもあり、中には亡くなってしまう事故もあったようです。というのもフッ素自体は毒性のある物質であり、取り出し作業には「フッ素ガス」「フッ化水素酸」が発生する可能性が伴い、その毒性に冒される危険と隣り合わせの作業だったのです。
フッ素ガスの危険性 |
フッ素ガスは無色の気体。刺激臭があり、吸入すると肺や気管支に炎症を起こして呼吸困難や肺水腫に至るおそれがある。腐食性もあるため皮膚や粘膜に付着することで激しい痛みや炎症を起こすこともある。 |
フッ化水素酸の危険性 |
フッ化水素酸は無色の液体。刺激臭があり、吸い込むとフッ素ガス同様に呼吸困難や炎症などの症状を引き起こす。腐食性が特に強く、皮膚や粘膜に付着すると重度のやけどを起こす可能性がある。 |
当時の技術力ではこれらの危険を十分に取り除くことが難しく、健康を害したり命を落としたりする方もいたのです。
フランスのモアッサンがフッ素の取り出しに成功
フッ素を単独で取り出す作業に成功したのは、フランスの化学者・薬学者アンリ・モアッサン(Ferdinand Frédéric Henri Moissan)という人物です。フッ素の研究、分離に関してノーベル化学賞も受賞しています。また、モアッサンはフッ素の研究以外にも人工ダイヤモンド(天然ダイヤモンドと同じ性質を持つダイヤモンドを人工的に製造すること。)の研究、カーバイド工業(炭素と他の元素とを化合させて、硬さ、摩耗性、耐熱性などに優れたカーバイドと呼ばれる物質を作る技術のこと。)、高熱化学(1000℃を超えるような高温環境下で起こる化学反応のこと。)の理論的基礎の確立にも寄与した人物として業界では知られています。
なお、フッ素の発見は純粋にモアッサン1人による成果ではありません。それまでの実験の積み重ねが招いた結果であると考えられています。フッ素の発見に大きく関与した人物としては、スウェーデンの化学者シェーレ(~1786年)とフランスの化学者アンペール(~1836年)も挙げられます。シェーレは実験の過程で気付いた違和感からフッ素の存在を予測し、「Flussaure(フッ酸、フッ化水素酸)」の命名をしています。なお、シェーレはフッ化水素酸だけでなく酸素を発見したことでもよく知られている人物です。
アンペールはフッ化水素酸の中に塩素のような元素が存在するのではないかと推測しており、ここでその元素を「le fluor」と名付けています。「le fluor」とは、日本語で「フッ素」、英語で「fluorine」を意味します。語源は諸説あり、ラテン語の「fleure(「流れる」の意)」が由来とする説、あるいはギリシャ語の「phthorine(「有害な」の意)」が由来とする説などです。このようにフッ素の存在は予測されており、その後実験に成功して単独で取り出したのがモアッサンだということです。
フッ素応用(フッ素樹脂など)の歴史
1886年にフッ素が発見されてから、フッ素は様々な分野で応用されてきました。例えば1928年にはフロンガス(フロンはフッ素と炭素の化合物のこと。)が発見されました。フロンガスは無毒で化学的安定性、不燃性といった性質を持ち、家電などにも広く活用されています。
そして1938年にはフッ素樹脂の1種である「テフロン(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)」も発見されました。フッ素樹脂発見は狙って起こったことではなく、別の研究をしていたところたまたま発見できた産物といわれています。現代ではフッ素樹脂の種類も増え、「パーフルオロアルコキシアルカン:PFA」や「パーフルオロエチレンプロペンコポリマー:FEP」「エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー:ETFE」「ポリビニリデンフルオライド:PVDF」などが広く流通しています。
まとめ
フッ素が見つかったのは約140年前と、比較的フッ素の歴史は浅いです。しかし発見されてからはフッ素樹脂など様々な形で応用が進み、現代でも研究開発が進められています。半導体分野や新材料分野などでフッ素化学は活きており、今後私たちの生活をより豊かにする可能性を秘めていると期待されています。