パワー半導体に関する日本・アメリカ・欧州・中国の研究開発状況を比較
これまでも各国ではパワー半導体についての開発が進められてきました。
大型プロジェクトの多くは2020年頃に一度節目を迎え、今後は応用研究や各企業における量産技術の開発を行うフェーズに入りつつあります。このような背景を踏まえ以下では、日本、アメリカ、欧州、中国における最近のパワー半導体の開発状況を説明していきます。
日本における研究開発とプロジェクトの進行状況
日本では、パワー半導体の新材料として注目されている「SiC」や「GaN」の基盤技術、応用・実用化に向けた取り組みが経済産業省等により進められてきました。
経済産業省では「低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト」が実施され、Si-IGBTの研究開発が2014年~2019年まで行われています。同プロジェクトにより、IGBTスケーリングの実証、デジタルゲートドライブといった成果をあげています。さらに、内閣府主導で2014年~2018年にはSiC・GaN・Ga2O3・ダイヤモンドといった新材料の包括的取り組みも実施されています。特に注力されたのはSiCで、研究費の半分ほどが投入されたと言われています。
2020年からは、環境省や文科省により、GaNパワーコンディショナー、GaN on GaN、受動部品の開発プロジェクトが始まっています。また名古屋大学と産総研による「窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ(GaN-OIL)」も発足され、名古屋大学を中心としたGaNデバイスの研究開発も進んでいます。
次世代パワー半導体材料については世界をリード
パワー半導体について、日本は新材料関連で世界をリードしています。
- SiC
企業を中心に応用研究等が進展。SiCインバータが新幹線に導入されるなど、SiからSiCへの移行が進む。特にSi-IGBTスケーリング則の実証が注目される- GaN
低耐圧品の市場への投入が進む。GaN-on-Si 基板、GaN縦型パワーデバイスに関する国家プロジェクトの成果が出ている。- Ga₂O₃
材料研究、デバイス基盤技術開発が国研・大学・企業でも広がる。論文や国際会議における発表件数も増加- ダイヤモンド
MOSFETの試作等で成果が報告されている
これら主な新材料いずれにおいても日本は世界を牽引していると評価されています。
アメリカにおける研究開発とプロジェクトの進行状況
DOE(エネルギー省)やDOD(国防総省)が補助金の支給により、研究プロジェクトを継続的に支援しています。
エネルギー省からは「CIRCUITS」や「BREAKERS」等のプロジェクトが実施され、Si・SiC・GaNに関する回路技術、実装技術の研究が進められています。 また、Ga₂O₃に関する物性研究に対しても大型の投資がなされ、2019年からは空軍研究所とコーネル大の共同研究としてGa₂O₃材料とデバイスの研究開発も開始されています。
SiCやGa₂O₃に関する研究者数が増加
SiC製造プロセスや人材育成については2016年から進められており、SiCに関する研究では大きな成果も報告されています。またウルトラワイドバンドギャップ半導体にも注目が集まり、Ga₂O₃の研究者数が大きく増えたとされています。
中国における研究開発とプロジェクトの進行状況
近年、論文の発表件数が急に増えており、研究資金が多く投下されたと考えられています。
特に、SiCの材料や関連するデバイス、システムの垂直統合開発に対し多くの予算と人員が投入され、Ga₂O₃に関する研究開発もここ数年で盛んになっています。技術的な水準も大きく向上したと見られています。その他、若手研究者の育成に注力されており、パワーエレクトロニクスに関わる学会での発表件数も急増しています。
パワー半導体の内需拡大から中国の世界シェアが増す可能性
中国では、新エネルギーを用いた自動車、鉄道の分野で特に大きなパワー半導体の国内ニーズがあると考えられています。Si-IGBT向けに300㎜のライン工場が作られているという報道があるように、今後世界的なシェアを中国が伸ばしてくる可能性があると言えます。
欧州における研究開発とプロジェクトの進行状況
欧州においては、EU内でのCO2削減・エネルギー融通を主な目的として様々なプロジェクトが進められてきました。近年ではパワー半導体関連のプロジェクトが終了し、企業との連携をしつつ、パワーエレクトロニクスデバイスやシステムの研究開発に移行しつつあります。
パワー半導体の新工場が稼働(ドイツInfineon社)
特に、ドイツで実施されているプロジェクト、競争力が注目を集めています。2016年から実施されてきたGa₂O₃に関する大型プロジェクトがいったん終了し、その後継のプロジェクトが新たに計画されています。
大学と国研が一体となって材料研究のプロジェクトが進めるとともに、Infineon社が300㎜ラインを稼働させたことも大きなニュースとなりました。このラインによる、Siパワーデバイスの製造がすでに本格的に始まっており、このタイミングで世界的な半導体不足が生じたということもあり、強いコスト競争力を持ちました。
まとめ
各国のプロジェクト内容はそれぞれに特色が異なっており、注力している分野も異なります。日本は特に次世代パワー半導体材料に強みを持っており、今後の研究開発動向が注目されています。
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