半導体産業の構造と東アジアによるファウンドリ寡占の問題を解説
2020年、新型コロナウイルスが世界的に流行し、その影響を受けて自動車向け半導体部品が不足するという事態が発生しました。その後その他業界にも半導体不足の問題が顕在化し、数々の製品生産に悪影響を与えています。しかしこの問題はきっかけこそ新型コロナウイルスにあるものの、大きな原因としては「半導体の需要拡大」と「半導体産業の構造」にあります。
前者は5GやIoT、DXの進展などによるものです。急速な需要増大に追随するほどの急速な生産能力の強化は難しいからです。そこで、当記事では特に後者の半導体産業の構造に着目し、半導体の供給に関してどのような課題があるのか言及していきます。
垂直統合型から分業へ
かつては垂直統合型の業態IDM(Integrated Device Manufacturer)を中心とする半導体メーカーが主流でした。しかし1990年代以降になるとパソコンや携帯電話の普及が進み、半導体の需要も急速に拡大していきます。特にロジックの分野で需要が増します。そしてロジックは用途を異にする専用品が使われるケースが多いことからIDMでの設計開発が難しく、分業体制を取るメーカーが増えてきます。設計と製造での分業です。
その結果「ファブレス」「ファウンドリ」「OSAT」(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)が登場します。
- ファブレス:設計開発を行い、製造は外部に委託するため工場を持たない
- ファウンドリ:設計に基づいてウエハ処理(製造の前工程)を行う
- OSTA:テスト、封入(製造の後工程)を担う
例えばファブレスには「エヌビディア」や「AMD」、ファウンドリには「TSMC」などが該当します。なお、ロジック以外の分野では多くがIDMとして残っています(「テキサス・インスツルメンツ」「ルネサスエレクトロニクス」など)ロジックにおいてもIDMが消滅したわけではありません。
設計開発および製造の両方に投資するほどの資力を持つ「インテル」はIDMとして活動を続けています。「サムスン電子」に関しても同様にIDMを続けていますし、これと並行してファウンドリも実施しています。
製品群別の分業状況
前述の通り、分業はロジック分野で盛んです。
一方、メモリに関しては垂直統合型が今でも強いです。分業の例は少ないです。なぜならメモリはロジックほど多品種の開発をするわけではなく、少ない品種を大量生産しているからです。設計開発と製造を分けることのメリットがロジックほど大きくないのです。アナログ分野では一部分業の例もありますが、やはりこちらも垂直統合型の方が多いです。
ファウンドリは東アジアの寡占状態にある
ファブレスやファウンドリ、OSATなどの分業体制とすることで効率的に半導体の製造ができるようになったのですが、この構造は各領域の寡占を招いています。特にファウンドリの寡占は、半導体不足の問題もあり、世界的に注目を集めるようになりました。現状、世界のファウンドリ市場のシェアは主に「TSMC」「サムスン電子」「GF」「UMC」「SMIC」という数社による支配状態にあり、東アジアだけでも売上高ベースで8割ほどを占めています。その中でも特にTSMCのシェアは大きいとされています。
大きな設備投資が求められ、ファウンドリへの参入が容易ではないことから、これら数社に日本・アメリカ・EUなどのファブレス企業は依存してしまっているのです。実際、この状況にあることから半導体不足の問題に対して国内だけで解決することが難しくなってしまっています。今後も災害やパンデミックなど世界的に何らかの大きな問題が発生する可能性はありますし、特定地域に依存してしまっていると供給不足や地政学的なリスクも大きくなってしまいます。
ファウンドリの重要性が増している
上のように、一部のエリアにファウンドリが偏ってしまっていることには様々リスクが伴います。そこで世界的にファウンドリの重要性に注目が集まるようになっているのですが、その理由はファウンドリの寡占だけではありません。その他の理由として、「リードタイムが長いこと」「工場建設にかかる時間が長いこと」が挙げられます。
半導体製造においては受注してから納品するまでのリードタイムが長いという特徴があり、また、工場の建設にも検討を始めてから実際に稼働をし始めるまでには数年以上を要します。そのため今直面しているような供給不足などが発生すると、柔軟な対応をするのが難しいのです。すでに世界のファウンドリ稼働率は高く、余力が少ないことも関係しています。
まとめ
効率的な半導体開発~製造までを実現するため、設計開発と製造の工程を分け、ファブレス、ファウンドリなどが登場しました。しかしその結果、一部のエリアにファウンドリが偏ることになり、現実に供給リスクも生じています。
こうした事態を受けて各国が半導体に関する戦略を打ち立て、自国の供給力を高めるための取り組みが行われています。日本でも政府が様々な取り組みを始めていますが、アメリカや中国などと比べたときの予算規模の小ささが指摘されることも多いです。半導体産業の勢力が国の経済力にも大きく影響を与えるとされていますので、今後の動向は要チェックです。
関連ページ:⇨次世代パワー半導体素材SiCについて
関連ページ:⇨【脱炭素社会の実現】エネルギー・環境問題に向けた注目の研究開発分野4選
関連ページ:⇨世界の半導体メーカー企業ランキング10社を紹介!
関連ページ:⇨弊社の製品・技術をご紹介